私はその類(たぐい)ではない

「数」とは何か、そしてそれはどうあるべきか

ボウイ訳詞『Lady Grinning Soul』:歯を見せてニカーッと笑うもうひとつの魂の化身である高級娼婦が1973年時点でアメリカード(VISAカードの前身)を所有していたことに我々は驚かなければならない

彼女はやって来て

そして出ていくだろう

彼女はお前に

信仰を植え付けるだろう

 麝香オイルを塗りたくった

甘い肌

 彼女は

「歯を見せてニカーッと笑うもうひとつの魂」

が女の姿へと化身したものだ

 

彼女が身に付けるであろうものは

コロン以外に

シルバーのアクセサリー

そしてアメリカード(Americard、VISAカードの前身) 

彼女はフォルクスワーゲン・ビートルを乗り回し

クールなカナスタ(カードゲーム)で

お前をこてんぱんに負かすだろう

 

脱ぎ捨てられた服が

散らばっていようとも

その部屋を恐れてはならぬ

彼女の乳房の豊満さに手を触れ

彼女の愛撫に底知れぬ愛を感じよ

 

彼女はお前の「生の果て」となるだろう

 

彼女はやって来て

そして出ていくだろう

彼女はお前に

信仰を植え付けるだろう

 

だが彼女が自らの「生」をお前に賭すことはない

いかなる意味でも

「生」が彼女の「ものの見方」となることはない

 

脱ぎ捨てられた服が

散らばっていようとも

その部屋を恐れてはならぬ

彼女の乳房の豊満さに手を触れ

彼女の愛撫に底知れぬ愛を感じよ

 

彼女はお前の「生の果て」となるだろう

 

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  • 桑田佳祐の「不思議な恋は女の姿をして今夜あたり訪れるさ」という歌詞は、この曲からインスパイアされたものではないか。  
  • ボウイの歌詞はニーチェに影響されていると言われることもあったりするが、この曲の一節「Touch the fullness of her breast」などは実に親プラトン的だ。プラトン主義者なら、「<乳房の豊満さ>などはない。<豊満な乳房>だけがある。しかも<豊満さ>に手で触れることなど誰ができようか」とでも言いたいところ。
  • grin(ning)は「歯を見せて(ニカッ|ニコッ|ニコーッ|ニカーッ)と笑う」ことであり、明らかに「薄笑い」ではない。またこれは「ニヤニヤ笑い」とも違うのだが、『不思議の国のアリス』の日本語訳ではgrinを「ニヤニヤ笑い」と訳すのが定番になっているようだ。
  • ニヤニヤ笑う魂(grinning soul)というフレーズは、「無きニヤニヤ笑い(a grin without a cat)」および「身体無きニヤニヤ笑い(a grin without a body)」を連想させる。このsoulは音楽ジャンルとしてのソウルではなく、ユングの「アニマ」であるという説tanjastark.com/2015/06/22/cra)に一票。