私はその類(たぐい)ではない

「数」とは何か、そしてそれはどうあるべきか

言葉は 降る雨の如く お前をすり抜ける

親愛なるハイドへ

私にはもうこれ以上説明できない
懸命に試してはみたのだが
私が説明に費やした
千言万語は
すべて無駄に終わった

言葉は
降る雨の如く
お前をすり抜ける


言葉は
お前の本質を射抜くことなく
お前の表層を滑り落ち
下水溝へと消え去る


雲一つない空から
なおも雨が降る
内(うち)なる雨が

   よぉ兄弟
   なぁーに固くなってんだよ
   もっとリラックスして
   他ならぬ「今、ここ」で起こっていること
   それをまず受け入れなよ
   俺はあんたの良き相棒だ
   絶対ヘマは犯さない
   だから
   あんたは俺の火をくべろ
   俺はあんたに日陰をつくってやる
   あんたにゃ俺のつくる日陰が必要なんだよ


ハイドよ
そこにいるんだな
頼むから
もう一度私に
霊感を与えてくれ
私はどうしてもお前を言葉で捉えたいんだ

「この奇妙に結びつけられた
不確実なフレーム
そして
ずたずたに引き裂かれた内面」

あぁこんな言葉では駄目だ
なおも雨は降る

「2つの心が
1つの血管に宿る」

あぁこんな陳腐な言葉では駄目だ
なおも雨は降る
内なる雨が

   よぉ先生
   なぁーにビビってんだよ
   俺とあんたの仲じゃないか
   俺の分け前はどこだい?
   俺は主役を張る柄じゃない
   俺は常に脇へと退く男さ
   だから今後は俺のことをミスターって呼んでくれ
   そう、ミスター・ハイドと呼んでくれ

   よぉ愛人
   なぁーに恥ずかしがってんだよ
   俺は一途な心の男さ
   でも注意した方がいい
   俺はちょいと乱暴者でね
   半人前じゃあ十分強くはなれないぜ

   よぉ兄弟
   なぁーに固くなってんだよ
   もっとリラックスして
   他ならぬ「今、ここ」で起こっていること
   それをまず受け入れなよ
   俺はあんたの良き相棒だ
   絶対ヘマは犯さない
   だから
   あんたは俺の火をくべろ
   俺はあんたに日陰をつくってやる
   あんたにゃ俺のつくる日陰が必要なんだよ

原詩はこちら:http://www.azlyrics.com/lyrics/roxymusic/stillfallstherain.html


<<訳詞解説>>
ボブ・ディランの頭の中』(原題"Masked and Anonymous")という映画で、"Drifter's escape" という曲の演奏中に、John Goodman 扮するプロモーターが次のように語る。

「これが何についての曲か分かるか?この曲を聴いて思い浮かぶのは,人間の持つ「ジキルとハイド」的な本質であり、そしてこの曲がハイドの視点から書かれているということだ」




だが、"Drifter's escape" という曲の歌詞は全然そのようなものではない。同曲の訳詞はこちら(http://butan.o.oo7.jp/bobdylan/JOHNWESLEYHARDING.html)が現時点ではWeb上でピカイチ(非常に的確な訳で、日本語としてとてもこなれた素晴らしい訳詞)。

人間が根本的に抱えている自己の二重性とその解決(のなさ)について「ハイドの視点から書かれた曲」とは、私の知る限り Roxy Music の "Still falls the rain" しかない。